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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)3683号 判決 1957年2月21日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

ただし二年間右刑の執行を猶予する。

押収にかかる杉角柱材二七二本(約四五石)並びに杉板四一二枚(約六石)および第十八明石丸を被告人から没収する。

当審並びに原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

福岡高等検察庁宮崎支部検察官検事野見山倭の上告趣意について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし所論に鑑み職権をもって調査すると、原判決は、第一審判決が被告人において他の者と共謀の上密輸出の目的で、判示杉材、杉板を買い付け集貨し、これが積載のため判示第十八明石丸(約五〇屯)を判示油津港に回航させてその予備をした旨の事実認定を是認しながら、所論摘示のごとく右場合における船舶は、関税法八三条一項の没収の対象とならない旨判示したことは、所論のとおりである。よって、関税法の没収について考えて見るに、同法の没収については、当初各本条において規定し、且つ、特に船舶の没収につき規定を設けなかったが、昭和二一年五月一七日勅令二七七号関税法の罰則等の特例等に関する勅令(いわゆるポツ勅)第一条において、「関税定率法第十一条に掲げる物品の輸入を図り、又はその輸入をした者」を処罰すると共に同法九条一項に「第一条の犯罪に係る物品又は同条の犯罪行為に供した船舶で犯人の所有し又は占有しているものは、これを没収する。」との規定を設けた。そして、同年同月同日附で大蔵省主税局長名義を以て、同勅令九条一項の「犯罪行為に供した船舶」とは、犯罪行為に利用した船舶をいい、第一条の既遂犯としての場合ばかりでなく、未遂犯等の場合にも犯罪の用に供した船舶はあり得る旨の取扱に関する通牒を発し、同年六月三日附を以て司法省刑事局長は、右通牒を裁判所検事局に通知した。その後、昭和二三年七月七日法律一〇七号を以て右勅令を廃止すると共に関税法八三条の規定を設け、その第一項に、「第七十四条第七十五条又は第七十六条ノ犯罪ニ係ル貨物又ハ其ノ犯罪行為ノ用ニ供シタル船舶ニシテ犯人ノ所有又ハ占有ニ係ルモノハ之ヲ没収ス」と規定した。そして、その時の七六条の規定は、「免許ヲ受ケスシテ貨物ノ輸出若ハ輸入ヲ図リ又ハ其ノ輸出若ハ輸入ヲ為シタル者」に限られていた。従って、右八三条の「犯罪行為」とは、輸出若しくは輸入を図り又は輸出若しくは輸入を為したる行為であった。しかし、右「図り」とは、如何なる行為を指すかについては前記勅令の当時から疑問があったので(昭和二三年八月五日判例集二巻九号一一三四頁以下当法廷判決、昭和二四年六月二八日判例集三巻七号一一一六頁以下第三小法廷判決、同二五年一月一九日判例集四巻一号三〇頁以下当法廷判決参照)、その後昭和二五年四月三〇日法律一一七号により右七六条二項、すなわち、「前項ノ罪ヲ犯ス目的ヲ以テ其ノ予備ヲ為シタル者又ハ同項ノ犯罪ノ実行ニ着手シ之ヲ遂ゲザル者亦同項ニ同ジ」との規定を設けて、いわゆる予備、未遂をも罰することとして疑問を一掃した。但し八三条一項には、新らたに「七六条ノ二ノ犯罪ニ係ル貨物」が加えられただけで法文の文句はそのままであった。以上の沿革から見ると関税法八三条の規定は、予備行為に供した船舶は、これを没収する趣旨と解するのが相当であって、特にこれを除外する理由はないものといわなければならない。されば、本件のような船舶を没収しなかった原判決は、失当であって、刑訴四一一条一号によりこれを破棄しなければ、著しく正義に反するものと認める。

よって、同法四一三条但書により、原判決の維持した第一審判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人の所為は、関税法(本件犯行当時である昭和二五年一一月二〇日頃施行のもの)七六条二項、一項、刑法六〇条に該当するから、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で主文二項の刑に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認めるから、刑法二五条により主文三項の期間右刑の執行を猶予し、押収にかかる主文四項記載の杉材又は杉板は、本件犯罪にかかる被告人所有の貨物であり、同第十八明石丸は、本件犯行に供したもので被告人の占有にかかるものであるから、関税法八三条一項によって主文四項のとおり没収すべきものとし、訴訟費用については刑訴一八一条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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